2024.06.28
マーケティング分析のフレームワーク:PEST分析について解説
PEST分析は、企業のマーケティング戦略や事業計画を策定するためのフレームワークです。この分析方法は、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの要素を用いて、企業の外部環境を詳細に調査し、これらが将来的に企業活動にどのような影響を及ぼすかを予測します。この手法は、マーケティングの権威であるフィリップ・コトラー氏によって広められ、その名前はこれら4つの要素の頭文字から取られています。
このコラムでは、PEST分析の基本的な概念とその適用の仕方・実行時の留意点について詳しく解説します。
目次
PEST分析の基本
PEST分析は、企業が自らの周囲の外部環境を詳細に理解し、現在と将来にわたるその影響を把握するために使用されるフレームワークです。このアプローチは、経営戦略の策定、マーケティング計画の作成、新しい事業領域への進出といった多様なビジネス活動の基盤として役立てられます。
PEST分析はマクロ環境を対象に、人口統計の変化、経済の動向、政治情勢といった企業活動に間接的に作用する要素を分析します。対照的に、ミクロ環境分析は市場規模や顧客動向のような、より直接的に影響を与える要素を詳しく調査します。PEST分析を通じて明らかになる各要素が企業にどのような効果をもたらすかは以下の通りです
政治(Politics)
政治環境がビジネスに与える影響は、法制度の変更や政策の安定性といった形で現れます。新しい規制や税制の改正、政治的動向が戦略的意思決定に大きな影響を及ぼすため、企業はこれらの変化に敏感でなければなりません。
経済(Economy)
経済要因には、景気の波動、為替の変動、金利の水準、消費者の購買行動、原油価格の変動などが含まれ、これらは直接的に企業の財務状態や市場戦略に影響を与えます。経済環境を理解することで、新たなビジネス機会を捉えることも可能です。
社会(Society)
社会的要因とは、人口構成の変化やライフスタイル、消費者の価値観の変化などを指します。健康意識の高まりや人口の高齢化などの社会的トレンドは、特定の製品やサービスへの需要を増やす可能性があります。
技術(Technology)
技術進化は、新しい製品開発やサービスの提供方法に革新をもたらし、市場の競争環境を変える可能性があります。データ分析、人工知能、ブロックチェーンなどの最新技術は、ビジネスモデルの根底を変える力を持っています。
PEST分析により、企業は長期的な視点でマクロ環境を評価することができ、組織全体の戦略的方向性を定める際の貴重な洞察を得ることが可能です。他の分析フレームワークと組み合わせることで、企業は変化する市場環境に柔軟に対応し、持続可能な成長を図ることが可能となります。
PEST分析の6ステップ
PEST分析を効果的に行うためのステップは、目的の設定から始まり、具体的な施策の実施に至るまで、6つのステップで進行します。
ステップ1: 目的とゴールの設定
PEST分析を開始する前に、その目的とゴールを明確にします。分析の目的が新規事業の立ち上げであれ既存ビジネスの見直しであれ、明確な目標設定は分析の方向性を決定づけます。また、誰がこの分析プロセスを主導するのかを決めることも重要です。
ステップ2: 情報収集と分類
次に、政治、経済、社会、技術の4つのカテゴリーに分けて情報を収集します。この段階では、国や業界団体が提供する統計データ、専門誌や新聞記事からの情報が役立ちます。収集した情報は、それぞれの環境要因に基づいて整理され、分析の基盤となります。
ステップ3: 事実と解釈の識別
収集した情報を「事実」と「解釈」に分類します。事実は具体的なデータや明確な情報に基づくもので、解釈はそれをどのように理解するかに関わる主観的な要素です。この区分けは、分析の客観性を保ち、誤解を避けるために不可欠です。
ステップ4: 機会と脅威の識別
「事実」として分類されたデータをさらに「機会」と「脅威」に分けます。ここでは、自社にとって有利な情報は機会として、逆にリスクとなり得る情報は脅威として扱います。この識別プロセスは、企業の特定の状況に応じて調整するのがおすすめです。
ステップ5: 短期・長期影響の評価
機会と脅威を「短期」と「長期」の視点で再評価します。この段階では、市場や環境の変化にどのように対応するかを検討し、戦略を時間軸で調整します。
ステップ6: 施策への落とし込み
最後に、分析結果を具体的な戦略や施策に反映します。このステップでは、短期的な対応が必要な事項を優先し、リソースを適切に配分しながら実行計画を策定します。また、長期的な目標に向けて段階的に進めることが求められます。
PEST分析のポイント
PEST分析を行う上で押さえておくべき主要なポイントを整理し、どのようにしてこれを実践的に活用するかを解説します。
1. 複合的な要因の分析
政治、経済、社会、技術の4つの要因は相互に影響し合っています。たとえば、デジタルトランスフォーメーション(DX)を考える際には、「社会」と「技術」の両要素が特に密接に関連します。これらの要素を単独でなく、その相互作用を考慮して分析することが、より現実的で実行可能な戦略を導く鍵となります。
2. 変化の捉え方
PEST分析は、単に現状を把握するだけではなく、過去から未来にわたる変化を捉えることが重要です。過去のデータやトレンドを理解することで、将来の変動を予測し、それに基づいて戦略を立てることが可能になります。
4. 事実に基づく分析
情報を収集する際は、事実と解釈を明確に区別することが必要です。解釈には個人の主観が色濃く反映されるため、事実に基づいた客観的なデータを用いることで、誤った分析や判断を避けることができます。
5. 戦略への統合
最後に、PEST分析の結果を事業戦略に具体的に落とし込みます。外部環境の分析を経て得た知見を基に、ミクロ環境分析や業界分析を行い、全体の戦略に統合することが成功へのカギとなります。
まとめ
PEST分析を通じて、企業は業績が好調であっても、予期せぬ外部の変化により状況が大きく変わる可能性を理解し、対策を立てることができます。分析を行う最大の目的は、外部環境における機会と脅威を明確に把握することです。これにより、企業は市場や社会の変化に柔軟に対応し、戦略的な意思決定を行うための重要な情報を得ることが可能になります。ただし、PEST分析を効果的に実行するためには、分析の目的を明確にし、情報収集の範囲を適切に限定することが重要です。このプロセスにメリハリをつけることで、得られた情報を実際のマーケティング戦略に活かしやすくなります。
また、PEST分析だけでは企業の全体像を捉えきれないため、内部環境を詳しく理解するためには、3C分析(顧客、競合、自社の能力を分析)やバリューチェーン分析など他の分析フレームワークと組み合わせることが推奨されます。これにより、外部環境だけでなく、企業内部の強みや弱点も同時に把握することができ、より総合的な戦略立案が可能となります。
PEST分析は、特にマーケティングを担当するようになったばかりの方や、外部環境の分析が必要になった方にとって、手始めとして取り組む価値のある分析方法です。これを起点にして、さまざまな戦略的分析を進めることで、企業基盤の強化に役立ててみてください。